084:鼻緒
碧谷 明

「きゃあ!!」
ガコン! と、音がして、玻璃音は蹲った。
「いったぁぁい(>_<)」
出会い頭にぶつかりそうになって、咄嗟に避けたのだが、
「だ、大丈夫ですか??」
ぶつかりそうになった相手の少年が、心配そうに覗き込んだ。
「えっと……あ、ハイ、なんとか……怪我はないみたいです~~v」
条件反射で巨大な猫を被って応えながら顔を上げると、目の前に少年の顔があった。完全に不意をつかれたのも事実だが、それ以前に――顔が、少し好みだった。
「あぁ、鼻緒が切れてしまったんですね……ちょっと貸して下さい」
言われた通り玻璃音が履いていた雪駄を脱いで差し出すと、少年は懐から手拭いを取り出し手際よく直した。
ただ、それぞれの、こと。お互い、名乗りもしなかった。しかも、その時玻璃音が幼い姿をその身に纏っていたのは、ホンの偶然だったのに――
少年は、姉・瑠璃華の助手だった。そして、外見や実年齢に反して内面はかなり大人であることなどを知った時、玻璃音は、己が気持ちを否定するのをやめたのだった――

碧谷 明