雲母少年探偵団 ③
碧谷 明

「俺にそんなコト言われたってッ!!」
迫り来る焔に目に涙を浮かべた俺たちは、完全に恐慌状態に陥っていた。
と、その時。
――ザシュッ
「轂焔ッ! 無事かいッ!? こっちだよ!!」
俺たちの周りを取り囲む焔がすっぱりと割れ、そこから瑠璃華さんが顔を出した。が――。
「るっ瑠璃華さんッ!? どうしてここに!!?」
「ッてゆうか誰だよあの人!?」
恐慌状態に陥っている俺たちがすぐに対応できよう筈もなく。
「んなコトいいから早くしなって!!!」
業を煮やした瑠璃華さんが俺たち二匹を抱えて焔の外に連れ出してくれたんだ。そして瑠璃華さんに引きずられるまま、俺たちは焔の傍を離れ、そこでようやく恐慌状態から脱したんだ。
「で、誰なんだよこの人」
瑠璃華さんとは初対面の山っちがこそっと俺をつっついた。ま、当然の疑問だよな。でも瑠璃華さんに丸聞こえだったんだけど。
「アタシは閼伽杯瑠璃華、探偵だよ。轂焔とはいとこ同士なんだ。轂焔の親に頼まれてアンタ達を探しに来たのさ」
俺が答える前に瑠璃華さんがそう答えた。サバサバしててカッコいいよな。
「ところで瑠璃華さん、あの焔、一体どうやったんですか?」
「そうそう、あんなに勢いの強かった焔が急に割れちゃったんですよね!!」
俺たちにはどうしようもなかったあの焔を簡単に割っちゃったんだ、気になって当然ってモンだよな。
「ああ、あれはコレだよ」
そういうと瑠璃華さんは右手を一振りした。すると、そこには
「つまり……いわゆる剣圧ってコトですか?」
「そうなるかな。そんなコトより二匹とも怪我とかしてないかい?」
俺は興奮を抑えつつ確かめたんだけど……当の瑠璃華さんはあんまり気にしちゃいなかった。
「どうやら、アレが諸悪の根源ってヤツらしいな……」
瑠璃華が子供たちを焔から救い出したのとほぼ同じ頃、雷霆は彼ですら見覚えのない姿を目にしていた。六本の足と四枚の翼、それに黄色の体と赤い嘴を持つ異形の者。魑魅系とは明らかに異なる姿だ。
「ヤバイかもしれんな……」
その異形は、獲物を狙う獣の如く瑠璃華達を狙っているように見えた。もちろん、瑠璃華達は気付いていない。瑠璃華を気に入っている雷霆にしてみれば、異形の態度は気に入らない事この上ない。それどころか腹が立つ。が、異形に己の存在を事前に知らしめてやる気など雷霆にはさらさらなく――。
ッッドォォォォォンッッッ!!!!
「「「ッッ!!?」」」
突然、巨大な音が、した。何がなんだか分かんなくて、俺たちは引き寄せてくれた瑠璃華さんにとっさにしがみついた。そのまましばらくじっとしてたけど、その後は何も起こんなかったんだ。
「……あの男……結局一体何しに来てたんだ……?」
瑠璃華さんの呟きに、俺たちは思わず顔を見合わせた。
(よくよく考えてみれば、瑠璃華さんこのだたっぴろい山の中で俺たちのことどうやって探しあてたんだろ?)
「瑠璃華さん……よく見つけましたよね、俺たちのこと」
「そうそう、ウチの山、広いのに」
俺たちがその疑問をぶつけてみると、瑠璃華さんは苦虫をかみつぶしたような顔をしたんだ。
「ちょっと手を貸してもらった奴がいてね……さっきの
「えっ!?」
「さっきのって霹靂だったの!?」
瑠璃華さんの言葉に、俺たちはあ然とした。だってこんなに近くに霹靂が落ちるなんて初めてだったし。それに霹靂って高いトコに落ちるって言うだろ? さっきの自然発火のせいでだいぶ焼けちゃってるけど、周りにはまだいっぱい木が立ってるし……何より、あの音焼け野原の真ン中らへんから聞こえてきたんだよな。
(ひょっとして……)
俺たちが探してたヤツはそいつに倒されたんじゃないかって、そう思えた。山っちもそう思ったみたいだ。瑠璃華さんにそう言おうかとも思ったんだけど、俺たちにできなかったことをあっさりやってのけておいしいトコかっさらっていったそいつにちょっと腹が立ったから、これは山っちと俺の二匹だけの秘密にしておいたんだ。それに、瑠璃華さんそいつのことあんまり好きじゃなさそうだったしね。

碧谷 明