雲母の世界
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雲母少年探偵団 ②

碧谷 明




「ああ、兄上、やはりこちらにおいででしたか」
霸霧帝(はくむてい)は神酒の入った瓶子(へいし)を片手に板の間へと上がりこんだ。
「……まだここは静かで涼しいからな」
だらりと寝そべって昼寝をしていた男が身を起こす。
場所は内裏、それも雷の間。男の名は霸霧帝の兄たる磐座(いわくら)雷霆(らいてい)。めったに人の立ち入る事のない雷の間は、雷霆にとっては格好の昼寝場所であった。
「それで? 一体何の用だ?」
「イエ、たまには兄上と一献傾けようかと」
昼寝を邪魔されれば誰だって不機嫌になる。しかし霸霧帝はそんな事には気付かぬかの如くのんびりと言の葉を紡いだ。
「フ……ン、どうせこの異常気象がらみで、何ぞ無理難題を吹っかけてくるつもりなんだろ? いいからさっさとその酒よこせ」
雷霆は霸霧帝の手から瓶子を引ったくり、そのままグイッと(あお)った。しかしながらそれもまたいつもの事。全く気にする様子もなく、霸霧帝もまたその場に座りこんだ。
「先日、魑魅(ちみ)系の玖潭(くたみ)から敷地内に何者かが入り込んだらしいとの報告がありまして。しかもこの異常気象と時を同じくするそうでしてね。何やら関わりがありそうですので、ここは一つ、少々調べてきては頂けませんか、兄上?」
「ちょっと待て、何で俺が調べに行く必要があるんだ!? お前が行けば良いだろうが!!」
瓶子を傾けながら、雷霆は横目で霸霧帝を睨みつけた。
「藤壺の散葉姫が今、丁度産み月なもので。何しろお互いに初めての子供ですからねェ。流石に今、内裏を離れる訳には……。第一、この異常気象には兄上もウンザリしておいででしょう? ……そうだ、いっそ兄上に私の代わりに内裏に居て頂きましょうか?」
霸霧帝の思いがけない発案に、雷霆は思わずその場に突っ伏した。
「……もぉ、いいさ。そんな堅苦しい上に七面倒臭い真似するぐらいなら、俺が行ってきてやるよッ!」
やけくそのように叫ばれたその言葉に、霸霧帝は満足そうに微笑んだのだった――。


「クッソ、あちィなァ……」
雷霆は言葉通り山中に、居た。山中だというのに異常気象の為か異様に暑い。熱い、と言っても良い程だ。現に雷霆は体中から汗を蒸発させていた。
「ッたりィ……あー何か早く起こんねェもんかな……」
と、その時、雷霆の視界に一匹の女の姿が飛び込んできた。髪を高い位置で一つに結った女の姿が。
「あれは……」
知り合い、というよりも二十五年も前から気に入っている相手。実際には初対面で既にフられているのだがそれはさておき。
「よう、黒鳳蝶(くろあげは)の」
最近近寄ると(とみ)に嫌がられるのだがそれがまた面白く、雷霆は嬉々として声をかけた。
「ッッ疾黒(しっこく)の!?」
案の定、女は顔を引きつらせた。女の名は閼伽杯(あかつき)瑠璃華。またの名を黒鳳蝶の瑠璃華。ちなみに雷霆の別名は疾黒の雷霆という。
「顔を合わせたぐらいでそう嫌がらんでもらいたいもんだ。で? 一体どうした?」
「……人探しだ」
予想通りの反応に雷霆はしてやったりと顔をほころばせ、気になっていた疑問をぶつけた。対する瑠璃華はいかにもしぶしぶ、といった風情で答える。実は、瑠璃華は探偵なのだ。職業柄、人探しなど日常茶飯事。つまり、瑠璃華が人探しと答えようとも何の不思議もない。
「ほう……何なら、手伝ってやろうか?」
「はあッ!?」
「こんな所にいるという事はその探している相手はこの山の中にいるんだろう? 一匹では少々きついんじゃないか? 何、どうせ俺もしばらくこの山中をうろつくつもりだったんだ。全く気にする事はないぞ?」
思いがけない雷霆の提案に、瑠璃華は目を見張った。とはいえ、雷霆の提案は理にかなっていたし、断る要因など欠片もない。もっとも、雷霆にしてみれば瑠璃華の傍にいる口実にすぎなかったのだが。
「……じゃあまぁとりあえず……子供を二匹……」
たっぷり逡巡した後で、瑠璃華はそう呟き、それを聞いた雷霆は唇に笑みを刷いたのだった――。



碧谷 明

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